行き違いの想いの果てに <忘れられた記憶の数々> 「…う、ん…リョーマ…」 いつの間にか、また眠ってしまっていた。そんな自分を可笑しく思う。 …いくら想っていても、相手に届くはずのない気持ちだから。 「リョーマ…。僕は諦めた方がいいのかな?」 なんとなく、サボテンの『リョーマ』に語りかけてしまう。 ふと、机の方へ目をやると、ボールを片手で握る。 「久しぶりの感触だな…。随分、テニスやってなかったもんなぁ……」 知らない内に手に持っていたボール。 …普通なら気味が悪いはずのボールを、大事にしている自分が居る。 暫くボールをいじっていると、部屋の内部に違和感を感じる。…背後に、誰か居る感じがするのだ。 勢い良く振り向くと、そこに居たのは…… 「………?!ま、まさか…リョーマ?!!」 目の前に、居るはずのない人物。…ちょっと違う。テレビで見たリョーマよりも幼い…。 「君は…中学1年生の、リョーマ?」 自分で、可笑しな事を言っている事は解っている。…しかし、それ以外に説明がつかないのだ。 「………忘れ物、取りに来て」 目の前のリョーマは、一言、そう告げた。 「忘れ物…?ま、待って、リョーマ!」 ふわりと、幻のように姿を消すリョーマ。 …自分は夢でも見ているのだろうか?そんな気分になってしまう。 「忘れ物…それって、一体…?」 もし、本当に忘れ物があるとしたら…あそこしか在り得ない。 「リョーマ…。青学に、来いって言ってるのかな…?」 それしか思い当たらない。…自分が考えてる忘れ物だとしたら。 「今行くからね…。リョーマ…!」 上着を羽織って外へと出る。丁度その時、姉が帰ってきたのだった。 「お願い、姉さん!青学まで乗せていって?!!」 「…いいわ、早く乗って」 弟の焦った表情にただ事ではないと判断した由美子は、車を走らせるのだった。 「ありがとう、姉さん…。帰りはタクシーに乗るから、先に帰ってて?」 「分かったわ。じゃあ、また後でね」 姉の車を見送ると、校舎の方へと駆け出す。 …懐かしい風景ばかりだ。その全ての記憶に、リョーマがいるのだが…。 「どうしようかな…。3-6に行ってみようかな」 何処も変わった様子のない教室。…今、自分が此処にいる事以外、何も不自然ではない。 「連休中でよかった…。普通なら、たくさん生徒が居るよね……」 教室内に入ると、自分の席であった所に座る。 「此処でよく、リョーマと英二の3人でご飯を食べたっけ……」 懐かしい…、そう思いながら辺りを見渡す。 すると、黒板に文字が書かれているのに気付いた。…それは、青学の生徒が書いたものではなかった。 「…俺の、忘れ物…貴方の忘れ物…、まだ…見つからない…?」 書いてあったのは英語で、少しずつ訳してみた。…貴方の忘れ物? 「僕の…忘れ物は……。まだ、見つからない…よ」 一生懸命、校舎内を走り回る。その先々で、同じような言葉が黒板に書かれていた。 「はぁ…はぁ…一体、僕の忘れ物は何処にあるの…?まだ、探してない所なんて…、!」 言い終わる前に走り出す。一番、大事な所を忘れていた。 …そこになら、僕の求めるものがあるかもしれない。 教室の窓から、そっとその場所を見る。何故だか分からないが、確信がもてた。 「僕の忘れ物…、きっとあそこだ…!!!」 何も考えず、ただ走る。テニス部だった頃、同級生の鬼部長に叱られた時のような走りだ。 「待ってて?……今、見つけるからね…?」 今は、何も考えない。考える必要がない。 君が仕掛けた罠なら、喜んで飛び込もう。…そんな覚悟は、別れる前からあったのだから。 「今行くよ…?……リョーマ…」 |